感染性腸炎について
ウイルスや細菌、寄生虫などの病原体に感染して発症する疾患の総称で、気温や湿度の高い夏は細菌性腸炎が、乾燥して気温の低い冬はウイルス性腸炎が流行することが多くなっています。病原体に汚染された水や食品によって感染が起こりますが、ヒトや動物との接触で感染する場合もあります。主な症状は、急激に起こる腹痛、吐き気・嘔吐、下痢、発熱です。
感染性腸炎の原因
ウイルス性胃腸炎
ノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルスなど、多くのウイルスによって生じます。
細菌性腸炎
カンピロバクター、サルモネラ、病原性大腸菌など、肉類や生卵などの食品を介して感染するケースが多くなっています。ヒトやペットから感染することもあります。また、赤痢やコレラなども細菌性腸炎であり、海外から帰国して発症するケースがあります。
感染性腸炎の症状
ほとんどの感染性腸炎では、吐き気・嘔吐、腹痛、下痢、発熱を起こします。また、血便もよくある症状です。症状で注意が必要なのは脱水です。下痢に嘔吐が伴うと大量の水分が失われているのに水分補給ができず、脱水が進行してしまいます。子供や高齢者は脱水の進行が速いので、早めに受診してください。
感染性腸炎の検査・診断
ウイルス性胃腸炎
ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスは、迅速検査で感染の有無が確認でき、20分程度で結果が分かります。なお、ノロウイルスの迅速検査は、3歳未満あるいは65歳以上の場合、保険適用で受けられます。ただし感染していても陰性になるケースが存在し、検査した以外のウイルスによる感染性腸炎の可能性がありますのでご注意ください。
細菌性腸炎
便を採取して培養検査を行います。培養に時間がかかり、結果が分かるまでに数日かかりますので、結果が出るまでは症状を改善するための対症療法を中心とした治療を行います。
感染性腸炎の治療
十分な水分を補給して安静を保つことが治療の基本になります。脱水を起こしている場合には点滴を行い、発熱や腹痛には鎮痛解熱剤を処方します。下痢は増殖した病原体や病原体が作った毒素を速やかに体外へ排出するために必要な症状であることから、基本的に下痢止めを処方することはありません。下痢止めを使うと病原体や毒素が体内に長く留まって症状を悪化させてしまうことがあり、自己判断で市販薬を服用するのは危険です。細菌性腸炎には抗生物質の投与が行われることもありますが、多くは培養検査の結果が出る前に症状が改善してそれ以上の治療が必要なくなります。
感染予防について
手洗いと消毒
普段から帰宅時や調理・食事前、トイレの後には石鹸でしっかり手を洗い、乾いたタオルやペーパータオルなどで水気をしっかり取る習慣を付けておくと感染リスクが低下します。また、調理中に、生肉・生魚、卵に触れたら、その都度、しっかり手洗いをしてください。さらに、まな板や包丁など、生肉や生魚が触れた調理器具はしっかり消毒してください。感染予防に加え、感染を広げないためにも手洗いと消毒は重要です。アルコールによる消毒が一般的に行われていますが、ノロウイルスなどアルコールによる消毒では効果の無いウイルスも存在します。家族が感染している場合の消毒には水で薄めた塩素系漂白剤を使います。ドアノブや便器は拭き取り、タオルやシーツなど布製品は浸け置きします。
食品の調理
原因となる細菌やウイルスに汚染されている食品でも、加熱調理をすることで殺菌・不活化できます。その場合には、中心までしっかり火を通すことが重要です。調理中は、生肉・生魚、卵に触れた手で他の食材に触れないようにしてください。肉や魚を切る包丁とまな板と、野菜や果物を切る包丁とまな板は別のものを使うようにすると安心できます。
嘔吐物・糞便の処理
感染性腸炎を発症した場合、嘔吐物や糞便の処理にも気を付ける必要があります。特にノロウイルスは嘔吐物や糞便が乾燥すると、含まれていた大量のウイルスが空中に浮遊し、感染を起こす可能性があります。家族の感染を避けるためには、使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用し、換気のために換気扇を回すか窓を開けてから処理を開始してください。ペーパータオルで嘔吐物や糞便を包み込むように拭き取って、塩素系漂白剤を染み込ませたペーパータオルで覆い、しばらく置いてから水拭きします。処理に使ったペーパータオル、手袋、マスクはポリ袋に入れて密閉して捨て、エプロンは薄めた塩素系漂白剤に浸け置いてから洗濯してください。
虚血性腸炎について
大腸に酸素や栄養を送る血管が一時的に閉塞を起こして血流が不足する虚血状態になり、大腸粘膜の炎症や潰瘍を起こす病気です。動脈硬化によって生じるため高齢者の発症が多くなっています。虚血は左側の下行結腸やS状結腸に生じやすい傾向があります。主な症状は、突然の腹痛や下痢、血便です。慢性的な便秘がある方に発症しやすいとされています。
虚血性腸炎の症状
稀に腸閉塞を起こすことがあり、その際には膨満感や吐き気・嘔吐などの症状を起こします。腸管壊死を起こす可能性がある危険な状態ですので、すぐに受診してください。
虚血性腸炎と似た症状の疾患
腹痛、下痢、血便は多くの大腸疾患と共通した症状です。症状だけで疾患を見分けることはできませんので、正確な診断のためには大腸カメラ検査が必要です。下記で同じ症状を起こす代表的な疾患を紹介します。
大腸憩室出血
大腸憩室は、大腸壁にくぼみができている状態で、そのくぼみ内の血管が脆くなり破綻することで起こります。主な症状は血便です。
虚血性腸炎の原因
動脈硬化で血管が狭窄して血流が低下し、発症します。便秘で強くいきむと腸管内圧が上昇し、狭窄していた血管が一時的に閉塞して血流が途絶え、酸素や栄養が不足する虚血状態になって炎症を起こしています。ストレスや生活習慣も発症のリスク要因です。
虚血性腸炎の検査と診断
問診で症状の内容などを詳しく伺って、血液検査、腹部超音波(エコー)検査、大腸カメラ検査などを行って診断します。同じ症状を起こす他の疾患との鑑別には、大腸カメラ検査が必要です。当院では研鑽を積んだ専門医が大腸カメラ検査を行っており、鎮静剤を使った楽に受けられる検査が可能です。大腸カメラ検査で虚血性腸炎特有の病変を確認することで診断できます。大腸がんなどが疑われる場合には病変の組織を大腸カメラ検査中に採取して病理検査を行い、確定診断します。
虚血性腸炎の治療
虚血性腸炎の多くは、数日間の安静で症状が改善します。軽度の場合には消化しやすく腸への負担が少ない食事によって自然治癒できる場合もあります。必要があると判断した場合は抗生物質を投与し、ご自宅で数日間安静を保つことで治ります。ただし、稀に腸管の狭窄による腸閉塞を起こすことがあり、腸管壊死を生じる場合があり、その際には手術が必要になります。