胃潰瘍・十二指腸潰瘍とは
炎症が悪化して傷が深くなり、粘膜がえぐれるようになっている状態が潰瘍です。消化管壁は、最も内側に粘膜があり、その下には、粘膜筋板、粘膜下組織、筋層があって、外側に漿膜という層状の構造を持っています。粘膜にびらんがあるのが胃炎や十二指腸炎であり、潰瘍は粘膜筋板まで炎症が及んでいる状態です。血管に傷が及ぶと出血を起こし、吐血や黒いタール便、貧血などを起こします。また、消化管壁に穴が開いてしまう穿孔を起こすこともあります。出血や穿孔を起こした場合には緊急処置が必要になります。そこまで悪化していない潰瘍は、適切な薬物療法で比較的早く症状を改善できますが、再発を繰り返しやすいので粘膜の状態が正常に戻るまでしっかり治療を続けることが重要です。再発を繰り返すと胃がんリスクの高い萎縮性胃炎を発症する可能性があります。なお、ピロリ菌感染陽性の場合、除菌治療に成功することで再発率を大幅に下げることができます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の症状
痛みなどの症状に加え、出血による吐血・タール便・貧血、穿孔による激しい腹痛などを起こすことがあります。また、特に症状が無く進行してしまうこともあります。
痛み
みぞおち(心窩部)に痛みを起こすことが多くなっています。違和感程度の軽いものから、差し込みや焼け付くような激しい痛みまで、幅広い症状があります。また、痛みは決まった場所に起こることが多くなっています。食事が痛みと関連していることがあり、痛みが食後に起こる場合は胃潰瘍が、空腹時に痛みを起こす場合は十二指腸潰瘍が疑われます。食事に関係なく痛みが生じる場合には、消化管だけでなく他の原因も視野に入れた診療が必要になります。
吐血・タール便
潰瘍によって血管が傷付いて出血を起こすことがあります。吐血は鮮やかに赤いイメージがあると思いますが、血液が胃酸と混じって黒いカスのような吐血を起こすこともあります。出血したものが便として出てくる場合、黒くて粘り気のあるタール便になります。吐血やタール便がある場合には、大出血を起こしている可能性がありますので、できるだけ速やかに消化器内科を受診してください。当院では胃カメラ検査の検査中に止血処置が可能です。
貧血、失神
大量に出血する、または長期間少量ずつ出血が続くと貧血を起こします。健康診断で貧血を指摘され、検査した結果初めて潰瘍からの出血が発見されることも珍しくありません。また、貧血では、立ちくらみ・めまい・ふらつき、動悸、息切れ、血圧低下、失神などの症状を起こすこともあります。貧血を指摘された、疑わしい症状がある場合には、早めに消化器内科を受診してください。
腹膜刺激症状
経験したことがないような激しい腹痛がある場合、胃壁や十二指腸壁に穴が開いてしまう穿孔を起こしている可能性があり、とても危険な状態です。すぐに救急受診してください。
無症状
潰瘍があっても特に症状を起こさないまま進行してしまうこともあります。健康診断で貧血を指摘された場合、男女を問わず胃潰瘍や十二指腸潰瘍の可能性がありますので、他に症状が無い場合いも早めにご相談ください。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因
胃や十二指腸の粘膜は強力な酸性の胃酸や消化酵素にさらされても自己消化を起こさないよう防御機能を備えています。この防御機能が低下する、または限界以上の強い刺激を受け、ダメージを蓄積することで潰瘍を発症します。胃潰瘍の最も多い原因にはヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)感染があり、次いで非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の副作用があります。他にも、ストレスや喫煙・飲酒、カフェインなどが発症や悪化に関与することが分かっています。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の検査と診断
胃カメラ検査を行って、潰瘍や炎症の状態や範囲を正確に把握し、診断します。出血を起こしている場合には、検査中に止血処置を行います。潰瘍は胃がんなどでも生じる場合がありますので、胃カメラ検査中に組織を採取して病理検査を行い、確定診断します。また、潰瘍はピロリ菌感染によって生じていることが多く、採取した組織を調べて感染の有無を確認します。陽性の場合には除菌治療を行います。除菌治療に成功することで、炎症や潰瘍の再発率を大幅に下げることができます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の治療法
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌感染陽性の場合には、除菌治療を行います。潰瘍の状態によっては、粘膜の状態が安定するまで潰瘍の治療を行ってから除菌治療をスタートします。胃カメラ検査で潰瘍が認められた場合、ピロリ菌感染検査は保険適用で受けられます。また、陽性の場合、除菌治療も保険適用されます。除菌治療では、2種類の抗生物質と、その効果を高める胃酸分泌抑制剤のPPIを1週間服用します。除菌治療は失敗する場合があり、成功判定は正確な結果を得るために薬の服用から一定期間経過してから行います。成功した場合には除菌治療は終了となります。除菌治療が失敗した場合、2回目の除菌治療が可能です。1回目の除菌治療が保険適用された場合は、2回目の除菌治療も保険適用されます。2回目の除菌治療では、抗生物質のクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更する以外は1回目と同様の治療です。現在、新しい作用を持ったPPIによって除菌治療の成功率が高くなり、2回までの除菌治療でほとんどの方が除菌に成功しています。なお、3回目からの除菌治療は可能ですが保険適用されないので自費診療となります。保険診療では使用できる薬に制限がありますが、自費診療ではそうした制限がありません。保険診療では使えない薬が有効なケースもありますので、ご希望がありましたらご相談ください。
胃酸分泌抑制剤
胃酸には、飲食物を分解して消化しやすくする役割に加え、口から入ってきた細菌やウイルスなどを殺菌・不活化する重要な役割も担っています。強力な酸性であることから、胃酸は消化管へ大きなダメージを与えてしまうこともあります。炎症や潰瘍の治癒を促進させるためには、胃酸の分泌を抑えることが有効です。潰瘍の治療では、この胃酸分泌抑制剤を中心にした薬物療法を行います。
生活習慣
ストレスは潰瘍の発症や悪化に関与しますので、睡眠や休息をしっかりとり、暴飲暴食や空腹時の飲酒・喫煙は避けましょう。趣味やスポーツなどでストレスの解消を図るのは有効ですが、ストレスを無くそうとしたり、厳格な生活習慣改善を行ったりすると、それが大きなストレスになってしまうことがあります。無理なくできる範囲で生活習慣の改善を行うようにしてください。